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能装束復原事業

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能において能装束の担う役割は大きく、演者の役柄や心情を表すだけでなく、能という伝統芸能の芸術性や哲学をも表現しています。
日本のジャカード織物は、すぐれた紋意匠と高度な織技術で、世界に誇る織芸術を構築してきました。能装束は、その集大成であり現在の和装の原点でもあります。
渡文は、日本人の美意識形成に大きな影響を与えた文化として、それを受け継ぎ、後世に手渡すことが使命であると考え本事業に取り組んでいます。

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事例

  • 黄地枝垂桜に胡蝶と源氏香図文様唐織

    黄地枝垂桜に胡蝶と源氏香図文様唐織


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    地は黄一色で金箔糸で源氏香の図が地文様風にあらわされている。上文様は枝垂桜と胡蝶。通例は秋草と蝶の組合せが多いなかに春の花と蝶の組合せは、むしろ珍しいと言わなければならない。桜は、織幅に三列並ぶが、例えば右端から垂れるもの、中は逆、つまり上方へ向かって垂れ、左端も正常に又垂れるものと交互にあらわす。但し、二列と考えた方が良く、裂幅は幾分縫い込まれているようである。又、桜の表現が巧みで、全体に良く、一続きに枝垂れる美しさを見せている。色彩は、黄地に調和して柔らかく、春の気分をあふれさせている。黄地に金色の香の図は、あまり目立たないと思われるが、舞台では、蝋燭の光を受け、舞の手振りや身体の起伏によって、細やかに輝いたことだろう。若い女性の役にまことに相応しいことと考えられる。

  • 白地若松と秋草文様唐織

    白地若松と秋草文様唐織


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    白地に金霞をあらわし、白と金のこの上もない高い品格を先ず印象づける。その上に菊などの秋草文様を配し、さらに子の日の若松を散した唐織である。金箔霞のさりげなさ、菊などの秋草の優雅な色の変化と、一方 子の日の若松に見る絵緯の力強さとの対比がこの唐織の配色から得られる特徴といえる。子の日の若松・菊は、共に寿をあらわす吉祥文様の代表で、この一領も気品に富んだ舞台上の効果が抜群と考えられる。

  • 黒紅地に籬と立菊文様唐織

    黒紅地に籬と立菊文様唐織


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    黒褐色地つまり黒紅地に大胆に立ちあがる大振の菊花を配し、籬で区切った唐織である。黒に近い紅地と、大菊の多色の絵緯、また葉一枚毎の配色も大いに注目され、しかもそれぞれが決して煩雑にならない周到な配色力の存在に敬服させられる。また、菊の散らばる構成をそれぞれの籬の線が引き締めている。原品は衝立の現状であるが、装束として復原したものである。

  • 入子菱繋地に団扇と唐扇散し文様唐織

    入子菱繋地に団扇と唐扇散し文様唐織


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    紫・納戸・白・橙等の入子菱文様を地に詰めて、上文に団扇と唐扇を散している。両種の扇各一本を組み合わせた二本が一単位で、繰り返されている。それを正逆二様に用いたり、団扇の中の揚羽蝶文様の色を変化させたり、唐扇内部の亀甲文様・卍繋文様、あるいは椿折枝文様の配色を細かく異にして、単一な感じを与えないよう工夫されている。また、総体は曖昧のある紅色が主調となり、この基調色が、威圧する無骨な文様ではない本品を、しっかりと手応えのある迫力に富む唐織としている。なお、唐扇の竹の柄の扱いは、全体に適度な動勢を与える働きをしていると言えよう。原品は伝来の装束中でも一段とこのように古式の色と文様をしめす一領であり、しかも小型であるのを、このように現代の能役者の体格にふさわしく考慮復原した。

  • 金茶地梅ヶ枝繋ぎ文様厚板

    金茶地梅ヶ枝繋ぎ文様厚板


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    梅花は古代よりこよなく愛好され鑑賞された花。春の魁として咲く芳香にあふれた生気ある花。新年の希望にみちた吉祥の花として珍重され、松・竹とともに歳寒三友としても尊重され、最高の瑞祥の意味を与えられた格調ある植物である。この梅をとりあげて江戸時代の優れた織手の感性によりこのように見事に意匠化されたもので、梅の花を枝で繋ぐという意表をつく構成と配色の面白さにきわめて現代的な感覚がうかがえ感動される一領である。

  • 段片身替りに蔦と秋草文様唐織

    段片身替りに蔦と秋草文様唐織


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    浅葱・萌葱・茶の三段の段替りを片身替りに構成し、蔦の葉を繋ぎ、間に秋草を配している。蔦の繋がりの調子と秋草の均整のとれた文様の配置に魅力がある。全体に紅気を含まない抑えられた色調が特色で「無紅」の装束である。唐織ではあるが、時に厚板として男役が着用することもあるのであろう。

  • 紅地金立涌に雲版と波の丸文様唐織

    紅地金立涌に雲版と波の丸文様唐織


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    重厚な紅地に金の引箔を用いて立涌をあらわした地文様は立ち昇る「気」をあらわす形象で、これは古代中国の『天地創造の根元を〈気〉とする』思想をふまえている。全体に散らした雲版・波の丸文様が、中国風の趣を感じさせる。しかも、高貴な深みがあふれている。この装束は、先般、片山九郎右衛門家で「渇水龍女」の上演にあたって特に復原(納戸地の分)・新しく考案(紅地の分)された、由緒ある装束である。京都府の水フォーラム協賛事業としての渇水龍女の舞では、納戸地を民を救い龍王となる王子役に、紅地は皇女役に着用された。

  • 萌葱地亀甲繋に鳳凰の丸文様厚板

    萌葱地亀甲繋に鳳凰の丸文様厚板


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    地となる亀甲繋ぎが色替りで鱗文様を構成されているのに先ず注目される。上文様は鳳凰の丸で眼・くちばし・冠毛などよく引きしまって品格高く、曳く長い尾の装飾的処理も魅力がある。この亀甲繋の与える有職文様の趣やあふれる緊張感。また原品の通例より小振りの形制など、片山家伝来能装束中でも古装束に入れられなければならない一領である。

  • 浅葱地青海波に桜花散らし文様唐織

    浅葱地青海波に桜花散らし文様唐織


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    浅葱地に青海波を一面に詰め、散りかかる桜花を配した文様の唐織である。青海波文様を全体に地詰とし、桜花のみを散らしたこのような例はきわめて珍しいと言えよう。小さな多色の「集と散」その配置のおもしろさなど、非常に優しい趣到にとんだ逸品である。永遠につづく青海波と春ののどかな気分は、やはり吉祥文様と考えなければならない。